紫野高校のアカデミア科は長らく英語面接を行っていたところ、令和6年度(2024年度)入試より、日本語による面接に変更されました。これについて、紫野アカデミアを目指す生徒が考えなければならないことを書いておきましょう。
紫野高校から出ている資料、そして説明会における説明をもとに、塾の見解を考えてみました。まずは資料をちゃんと読んでおくことが大切です。
・紫野高校アカデミア科 面接資料 (ソース元の紫野高校サイトは常時SSL化されてないので塾のサーバーにアップすることにしました)
最後には「この面接をうまくクリアするためのコツ」を記述しておくので、特に受験生はよく読んでおきなさい。
アカデミア科はずっと英語面接だったので、高倉塾におけるアカデミア科受験生に対しても、英語面接の練習を行ってまいりました。受験生に英語で小難しいことを質問し、それに対してアタフタする様子を見て「こう言えばよい」と表現方法のアドバイスをするようなトレーニングです。これはこれで、「英語を使う感覚」「失敗を恐れぬ堂々とした態度」を養うためには有意義な時間ではありました。
ただ受験生を送り出す塾側としては、下記2点の疑問があったことも事実です。
- 英語というハードルを課しているので、話す内容がすごい薄っぺらくならざるを得ない
- アカデミア科志願者なんて、英語面接はほとんど英検でやってるし、また入試でやる意味はあるのか
英会話なんて、正直言って大学生とか大人になったら研究や仕事上の切迫した必要性に駆られて、いつでも話せるようになります。そのため、別に中学生に話すことを要求してもあんまり意味はないのが実情ですし、それよりも中身の思考を磨くほうが将来の活躍につながることは間違いないのです。
そんな考えもあったのかなかったのか、紫野高校は令和6年度より、他の高校と同じく日本語面接に変更します。
令和6年度前期選抜実施要項に書かれているとおり、面接では「世界中で起こる事象に強い関心を持ち、持続可能な社会の実現に対してはっきりと意見を述べる素養」をチェックするようです。
資料を見て準備する時間は20分(後述)ありますが、面接で実際に話すのは5分だけ。これを英語でやっても全く本人の思考内容を掴むことができないので、日本語に変更して内容を重視するのは自然な変更だと感じます。
面接の配点は以前までと変わらず、400点満点中の40点なので、受験者の命運の10%を占めます。以前の英語面接では「英語の表現能力と姿勢」をメインとして評価せざるを得ませんが、今年からは堂々と日本語で「世界的な問題に対する着眼点、及び日頃の発想と思考」をチェック、評価されることになります。
具体的な面接内容を、前掲の資料に沿ってまとめておきます。
1. 資料を見て考える(20分予定)
準備室に案内されると、封筒が渡されます。
中に入っている資料を見て、20分間それについて考えます。
封筒から、下記を取り出します。
- 複数の資料(写真や文章、図表など)
- 課題が書かれた紙
- メモ用紙
複数の資料を見て、「持続可能な社会の実現」という観点から、課題について考えます。この際、メモ用紙に自分のアイディアや思考を書くことができます(資料や課題には何も書き込んではいけない)。
係の指示に従って、資料と課題を封筒に戻し、返却する。そして、メモ用紙だけを持って面接室に移動します。
2. 個人面接(5分予定)
面接は、受験生が1名に対して面接官が2名。受験生の目の前には、準備室と全く同じ資料が並べられています。
資料に関する面接官からの質問に答えます。この際、メモ用紙を見ても問題ありません。質問は3~4問、面接終了後にメモ用紙を面接官に提出します。
面接は5分間の予定なので、あっさり終了するでしょう。
課題に関して、紫野高校から出ている課題の一例を確認します。一例であるので、このままの資料と課題が渡されると考えないように。
封筒の中に5枚のイラストが入っているらしい。
気になる課題の内容では、「関心ある2つのテーマを選び、自分の考えをまとめよ」が例示されています。
例えば、こんなテーマ及びイラストが入っている可能性があります。
- ジェンダー平等を実現しよう
- エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任、つかう責任
- 平和と公正をすべての人に
これは国連で全会一致で採択された、SDGs(Sustainable Development Goals, 持続可能な開発目標)の具体的な17の目標をそのまんま持ってきたものです。国連のウェブサイトでしっかり公表されているものであって、日本語で見れるサイトだと日本ユニセフのサイトが1番分かりやすいです。
面接準備としては、この17のゴールを一通り見ておいて、最も関心のある項目を最低でも3~4つ、余裕があればそれ以上に目星をつけておきましょう。
紫野高校が提示している例に沿えば、受験生は下記のような流れで面接を受けることとなるでしょう。
- 封筒には、SDGsの17種類のイラストなどが入っている
- 17のイラストから2つを選び、課題に対するアイディアを20分間で考え、メモに整理しておく
- メモを持って面接室に入る
- 面接官からの質問に、メモを見ながらハッキリと答える
面接官に聞かれる質問と、紫野高校からのアドバイスを引用します(紫野側で提示している事例)。
「選んだ2枚と、なぜその2枚を選んだか教えてください。」
アドバイス:例えば5(ジェンダー平等)と12(つくる責任、つかう責任)を選んだ場合、「人権学習でLGBTQの当事者の方の話を聞いたから」「中学校に衣類のリサイクル・リユースBOXが設置されたから」などのように、それらを選ぶきっかけとなった自分自身の体験を語るなどの回答が可能でしょう。
こういう質問が来たら、普通にその理由を言えば良いです。アドバイスを読む限りでも、そんなに深い理由など必要ないことが分かります。中学校での経験や、ニュースを見て感じた正直な自分の問題意識をハッキリと伝えましょう。
「選んだ2枚について、あなたの周囲や地球上でどのような問題が起こっていますか。それぞれ一つずつ例を挙げてください。」
アドバイス:例えば5(ジェンダー平等)と16(平和)を選んだ場合、5については今年6月に日本の国会で成立した『LGBT理解増進法』の課題や、日本のジェンダー・ギャップ指数が先進国の中で最低レベルであること、16についてはウクライナ情勢や香港での言論統制など、日頃ニュースなどに接する中で印象に残っている問題や事件を挙げてもらうことができるでしょう。
これは選んだ中身をしっかり聞かれます。つまり、「そのテーマについて、自分なりに知っていることがありますよ」ということを堂々と面接官に伝えてください。
なんだか難しそうに感じるかもしれませんが、「問題の本質はどこにあるのか」「解決策を教えろ」とか、そんな学者でも難しいようなことは聞かれていないから安心してください。想定の質問としては、ただ単に「例を挙げてください」と言われているだけです。これは、学校で習ったことだったり、事前に準備してインターネットで調べてみるだけでも確実にラクになります。必ず事前に調べておきましょう。「知りません」では面接は不利に働きます。
「選んだ2枚を関連付けて、あなたが高校で考えたいことを話してください。」
アドバイス:例えば5(ジェンダー平等)と12(つくる責任、つかう責任)を選んだ場合、性自認をファッションで表現したい人と、リユースの衣類をマッチングする取り組みなど、自由で柔軟な発想でアイデアを語ってください。
これも「難しい、そんな良いアイディアはない」と思う人もいるかもしれません。ただ、勇気を出してください。よく読んでみると、アドバイスに挙げられている例も無理やり感があるイマイチなアイディアです。しかし、これでOKだし、むしろこうあるべきなのです。
紫野高校も、受験生から崇高なアイディアが聞きたいのではなく、「異なる事象を、繋げて考える発想を持っているのか?」を問いたいだけです。思い詰めて「オリジナリティ溢れる、素晴らしいアイディアでなきゃダメだ」とか思ってはいけません。渾身のアイディア一つよりも、イマイチなアイディアを2~3個パンパン、と言える人の方が優れています。アイディアとは、「質」より「量と瞬発力」であることを心がけよ。
仕方ないですね。「面接点を稼ぎたい」と考えるアカデミア科受験生のために、具体的な面接対策を伝えたいと思います。勉強に比べたらそんなに時間はかからないし、直前にササっとやるだけで総合点の10%を取れるのはけっこうコスパがいいと思います。
アカデミア科の募集要項では、面接の検査内容欄に『持続可能な社会の実現に向けて、自分なりの考えをまとめ』『地球上の諸課題を自分ごととして受け止め』等と書かれています。この募集要項は毎年コロコロ変わるものではないので、しばらくはこの方針で面接が行われるでしょう。
『持続可能な社会』『地球上の諸課題』と言ったら、そのまんま国連が定めているSDGsのことを指すのが普通です。しかし、持続可能と言われてもイメージがつきにくい中学生が多いでしょう。
そんな中、分かりやすくまとめてくれているユニセフのサイトすら見てないあなたは、面接点で他の受験生の後塵を拝することとなってしまいます。つまり、周りよりも10%のハンデを背負うことになる(正直言ってそれでも受かる人は受かるけど)。というより、本当にアカデミア科を目指す気があるのか。
小中学生向けにSDGsについて作成されていて、とても見やすいサイトです。文章を読むのがしんどい人は、サイト内の動画は絶対に見ておきなさい。一つだけ抜粋しておきます。
5つくらいはピックアップして、ユニセフのサイトをよく読んでおくことが大切です。ユニセフのサイトでは、ゴール一つ一つに詳しいページが用意されています。例えば、『1. 貧困をなくそう』はこんな感じです。
17のゴール全てに精通する必要はありません。関心あるものだけ、ちょっぴり詳しくなってください。
もう一度、紫野の資料を読んでみます。
本番でどうなるかは不明ですが、「資料が5枚入っていて、2枚を選ぶ」という形式になっている場合、「自分が事前に調べてみたトピックが入ってない。知らんやつばっかりじゃん」となる可能性もあります。ゼロから考えると、20分で足りないかもしれません。
したがって、余裕がある人は17のうち、たくさんのページを読んで「へ〜」と思っておきましょう。勉強というより、リラックスタイムにユニセフのサイトを読んで楽しむ感じがベストです。それができていれば、課題がどんなものであれ、20分間のうちにしっかりとした考えをまとめることができますよ。
別に詳しく読まなくても、一見して「どういう意味だ?」と思われるゴールについては中身を知っておきたいところです。例えば12の「つくる責任、つかう責任」はパッと聞いただけでは何のこっちゃ分かりません。そういうものはサッと目を通して意味を分かっておくと安心して対処できます。
おそらく実際の現場では、「ちゃんと全部の内容が書かれた資料を配ってくれて、何も知らない人でも20分の間で読んでゼロから考えられるようになっているのでは?」と思います。どんな想定外のことが起こっても、冷静に対処しましょう。
上述の「データ」に関してなど、SDGsといっても「このゴールはどういう意味なのか」「何を意味するのか」などの点はなかなか分かりにくい場合もあるでしょう。そんな時はリラックスした日常の場面にて、なんだか賢そうだと思う大人とSDGsについて話してみてください。
- 親
- 社会の先生
- 塾の先生
そういう人となかなか話す機会がない人は、学校や塾の模擬面接で話し、フィードバックをもらうだけでも素晴らしい練習になるでしょう。
自分が考えているだけでは気づかないこと、新しいアイディアに出会うことができます。ほんの10分でもそんな経験をするだけで、自分の話すことに少し自信が芽生え、堂々とした態度で面接を受けることができます。
「メモを面接室に持って行っても、それを見て答えても良い」と書かれているので、メモはちゃんと活用してください。「私はメモなんかなくても話せる」と思う人もいるかもしれませんが、別に見なかったとしても、思考の整理ツールとしてメモを使ってない人は微妙です。
ラフな感じで全然OKなので、楽しんで書きましょう。
- 自分の選んだゴールを記述
- それぞれにまつわる、身の回りのことや日本のことを箇条書きしておく
- 重要なポイントを強調して書いておく
- 異なるゴールについて、それをかけ合わせたアイディアをたくさん殴り書きする
など、自分なりの個性を出してください。これは面接終了時に提出するようですが、メモの内容は評価基準に含まれないはずです。安心してのびのび書いてください。
色々と書きましたが、「マジメに考えすぎて、面接対策ばっかりに気を取られるのも良くない」ことも忘れないでおきましょう。そんな時間があったら、ちょっとでも英語長文や数学をやるべきです。20分の準備のうちに発想できることだってあるので、全てを事前に済ませなくても良い。
募集要項に書いていたように、あくまでも「自由闊達に意見を述べる素養」が大前提として求められるものであって、知識がたくさんある人に高得点が与えられるわけではありません。
評価の観点を把握しておくことは、とっても大切です。
「SDGsなど、世界中の問題に対して深い知識を持っているか」とか、そんな観点では評価されません。最低限の準備があれば、あとは自分の意見を恐れることなくハッキリと述べ、「私はアカデミア科で学ぶのだ」という強い気持ちを見せることが1番大切なので、そこだけは忘れずに面接に挑みましょう。
- 知識をたくさん披露してくれるけど、ボソボソ聞きにくくて自信なさそうに話す受験生
- 全然何も知らなさそうだけど、明るくはっきり意見を伝えてくれる受験生
この両極端な2人の受験生がいた場合、面接官が高い評価を与えるのは2の受験生です。だから、SDGsを熱心に調べるのは、合計でも2~3時間くらいで十分です。それだけで、何も準備しないよりは大きく点数をアップさせることができます。
何が起こるか分からないし、もしかしたら全く想定外の資料を渡されるかもしれません。しかし、冷静になれば必ず対応できるから大丈夫。昨年度までの合格者も、英語面接でしたが「アカデミアの面接はとても楽しくできた!」と報告してくれました。トラブルも含め、あくまでも楽しむ気持ちを忘れないでいきましょう。
- SDGsの17のゴール、関心あるゴールを複数、ユニセフのサイトなどで調べたか?
- そのゴールを選んだ理由を、しっかり言えるように練習したか?
- そのゴールに関して、日本や身の回りに関して起こっていることがないか、考えたり調べてみたか?
- その複数のゴールを関連づけて、何か高校でできそうなアイディアや、日本が行うべきことがないか考えたか?(考えすぎてはいけない。質より量。)
- ゴールについてのデータを見てみて、「驚いたこと」「意外だったこと」「直すべきだと思ったこと」など、自分なりの感想をまとめておいたか?
- 「なぜこの高校を志望したのですか?」など、普通の基本質問の返答もしっかり練習したか?
上記の意識しながら周りにいる大人の人と話をしてみると、自分の考えはスッキリまとまって、自信を持って面接に挑むことができます。塾でもそういう練習をさせて送り出したいと思います。