ケーススタディとは、個別具体的な事例(ケース)を研究(スタディ)することで、そこから得られるヒントや法則を見つけるための学習です。
高倉塾では長年、京都府の高校受験をサポートしています。その中でも典型的なケースをピックアップし、そこで得られた知見をケーススタディとして紹介します。受験生は参考にしてください。
今回紹介するのはFさんのケースです。
元々は1年春から大手進学塾に通っていたFさんですが、1年を通してなかなか成績が上がらないことと、「塾の授業のスピードも早くてよくわからなくなってきた」といった本人の訴えから、個別指導への乗り換えを検討していたようです。
こういったケースは典型的なもので、本人の分からない部分や要改善点を丁寧に潰していくための指導時間が提供されていないことが理由です。
うちでなら問題なく解決できるであろう、ということで受け入れを決定しました。
大手進学塾に通っており、一通りの応用問題は目にしていたようですが、肝心の学校評定は伸び悩む日々であったようです。
中1で入塾した時から、卒業時までの評定をまとめます。
評定 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 国語 | 音楽 | 美術 | 保体 | 技家 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1年学年末 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 5 | 4 | 5 | 33 |
2年学年末 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 4 | 5 | 3 | 5 | 35 |
3年12月末 | 5 | 5 | 4 | 3 | 3 | 4 | 5 | 4 | 4 | 37 |
3年間 合計 | 105 | |||||||||
圧縮後 | 78 |
入塾時には1年学年末の評定までが出ていました。主要5教科において全てが3であるので、どこか公立高校の普通科を目指す分には問題ありませんが、専門学科クラスになると合格率が落ちてしまう数字です。ただ、副教科で良い成績を取っているのは大きなプラスです。
入塾当初より、Fさんは姉が山城高校で充実した生活を送っていたため、本人も山城高校への進学を希望していました。
保護者の方からは「今の評定に関わりなく、できる限り文理総合科に合格できるレベルになってほしい」という希望を伝えていただきました。その時には「そのためには、まず入試対策とかどうこうではなく、2年から評定を上げないと話にならない」と答えています。
確かに本人も、「美術とか副教科はしっかり取れているけど、数学や英語はそんなに得意でもないので難関高校なんて無理だろう」といったイメージを抱いています。ただ、数英理社国、これらは今後に十分伸びる可能性があることも事実であり、諦める必要は全くなし。
かくしてFさんは、学校の成績を高めることに集中して生活することになります。
入塾当初からの課題としては、当然評定が低いことです。1年学年末時点では、9教科合計が33です。決して悪くない数字ですが、このままいくと山城高校の普通科も、年度によってはハラハラする戦いとなるでしょう。
評定 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 国語 | 音楽 | 美術 | 保体 | 技家 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1年学年末 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 5 | 4 | 5 | 33 |
33は悪い数字ではありませんが、Fさんは主要5教科でオール3となっています。副教科が強いことは、山城高校の普通科を受験するにおいて素晴らしいアドバンテージになります。実際、この段階である程度は普通科合格の確率は低くないと推測することができます。
【京都府】公立高校(普通科)の入試制度を解説普通科の入試問題レベルなら、少しくらい数学や英語が苦手でも、対策次第でなんとか良い点数が取れるからです。
ただ、今回Fさんが目指すのは専門学科である文理総合科です。このレベルとなると、例えば数学の問題は基礎に加えて長い文章問題など、数学力と共に文章理解力が試される問題も積極的に出題されます。
じっくり読み込んだ上での思考が必要です。
そういった問題にも堂々と対処するためには、日頃から応用問題にも積極的にチャレンジし、学問の楽しさを体験しておく必要が出てきます。
Fさんの場合は、「数学も英語も理科も社会も国語も、別に得意も不得意もない」と話していましたし、実際の基礎学力もまだまだ手堅いものとは言えませんでした。
文理総合科の学力検査配点は典型的なもので、数英国の配点が高く設定されているため、その中でも伸ばすべき数英については日頃から文理総合の受験を見越し、意識して力を入れる必要があります。
国語 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 報告書 | 面or小 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
山城 文理総合 | 100 | 100 | 100 | 50 | 50 | 100 | 面接25 | 525 |
中2春にて入塾してくれていますが、文理総合科を見据えて学習を進めるには、特に鬼門となりうる数学と英語は伸ばさなければなりません。
評定 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 国語 | 音楽 | 美術 | 保体 | 技家 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1年学年末 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 5 | 4 | 5 | 33 |
堀川探究や嵯峨野こすもすをはじめとした専門学科においては、数学と英語の少なくともいずれかに強みがなければ合格は難しいでしょう。安定的に点数が取れるかどうか、が合格率を左右します。
そう考えると、数英の評定が「3」である現状は看過できるものではありません。もちろん他の教科も大切ですが、勉強時間の配分はより一層数学と英語に集中させるべきでしょう。英語は毎日欠かさず触れておくと簡単に合格水準に達するのでおすすめです。
総合点を考える時はやはり、面接を除いた500点で考えます。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
400 | 100 | 500 |
Fさんは報告書(圧縮後評定)では最終的には78点となったため、あとは学力検査の点数が重要です。78点あれば、文理総合へのチャレンジには悪くない数字です(有利なわけでもない)。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
?/400 | 78/100 | (?+78)/500 |
Fさんは中3時点では数学と英語で「5」を取れるレベルに達したものの、1年から若干副教科で稼いでいた感が否めません。したがって、そこまで学力検査試験に自信があるわけではない状況です。
文理総合の合格には疑心暗鬼、とにかく全力でぶつかるだけだという心理状況が最後まで続きました。ただ、総合的には全体で6割以上は取らなければ合格率が下がってしまいます。学力検査の目標としては、控えめに6.5割を取れれば最高だ、といった具合に設定されました。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
55/100 | 70/100 | 70/100 | 30/50 | 35/50 | 260/400 |
仮に学力検査で目標と同じ260点を取ると、下記のような配点となります。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
260/400 | 78/100 | 338/500 |
338点は、500点満点では約68%, つまり7割弱といったところです。合格を見込める数字はクリアしています。
理科と社会に関しても、Fさんは特に強みではありません。ただ、文理総合科の理科や社会はそんなに難易度も高くありませんし、「応用テキストに長期間チャレンジする」といった行動が不要です。
その分は数学と英語に対して時間を注ぎ込むことができるので、副教科に偏っていたFさんにとっては受験しやすい高校であったといえます。
これは山城文理総合に限らず、合格者の声を聞くと「志望校以外の高校の過去問をやっておいてよかった」と教えてくれることが多いです。
例えば山城文理総合科を狙う受験生の皆さんは、まずは公立普通科と文理総合の過去問は最優先とした上で、
- 桃山自然科学
- 紫野アカデミア
あたりはしっかり解いておき、余裕があったり楽しくなってきたら
- 堀川探究
- 嵯峨野こすもす
- 西京エンタープライジング
などの難関高校の問題も解いておきましょう。
Fさんはそんなに余裕はありませんでしたが、桃山自然科学と紫野アカデミアの気になった問題はつまんで解いてみて、解説を受けてくれていました。
Fさんは実際の学力検査にて、下記のような点数を取得しました。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
72/100 | 70/100 | 52/100 | 31/50 | 28/50 | 253/400 |
国社理が多少難しく感じて苦しむ展開になりましたが、数学でなんとかカバーした結果となりました。文理総合なので数学はじっくり読ませる問題が多くて普通科より難易度は上がる中、積極的に対策してくれたことが功を奏した形です。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
目標 | 55/100 | 70/100 | 70/100 | 30/50 | 35/50 | 260/400 |
結果 | 72/100 | 70/100 | 52/100 | 31/50 | 28/50 | 253/400 |
もともと副教科の成績の方が高かったので、「文理総合の、特に数学と英語に対してしっかり対処できるのか」がもっとも大きな懸念事項でした。しかし中2以降では良く目的意識を持って頑張ってくれたため、少なくとも数学と英語に関しては、入塾当初では考えにくいほどの点数を取ってくれました。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
253/400 | 78/100 | 331/500 |
結局総合点では331点、無事文理総合に合格することができました。1年生時点では、学校の成績(報告書)の点数で遅れを取っていましたが、受験までにじっくりと基礎学力の向上に努めてくれたことが大きな勝因です。余裕のある合格ではありませんでしたが、なんとか最後まで力を尽くしてくれたと思います。
Fさんのケースから学べることをまとめます。
- 副教科に偏った成績であっても合格できる
- 主要教科が平凡な評定であっても、対策次第で学力検査7割は不可能ではない
Fさんが受験した山城高校の文理総合科は、人気があって受験ハードルとしては程よい高さです。9教科ではオール4ほどあれば、受験を前向きに考え、対策に入って問題ありません。