ケーススタディとは、個別具体的な事例(ケース)を研究(スタディ)することで、そこから得られるヒントや法則を見つけるための学習です。
高倉塾では長年、京都府の高校受験をサポートしています。その中でも典型的なケースをピックアップし、そこで得られた知見をケーススタディとして紹介します。受験生は参考にしてください。
今回は、西京高校 エンタープライジング科に合格したTさんのケースを紹介します。
![](https://takakurajuku.jp/wp-content/uploads/2023/03/スクリーンショット-2023-03-31-15.56.05.png)
Tさんは中2の春頃に髙倉塾に入塾しています。1年生のころの成績は良好で、入塾時の面談においても、本人は勉強は得意である様子でした。部活やクラス委員なども積極的に活動しつつ、とても充実した中学生活を送ってくれていました。
中1の頃は塾に入っておらず、中2になる際に徐々に高校受験への準備をしておきたかったようです。
Tさんは中1で好ましい成績を取っていましたが、それもそのはず、中学受験を経験していたからです。受験した中学校は西京高校の附属中学校であり、高校受験でいう西京高校エンタープライジング科の中高一貫教育を受ける中学校です。
ただ結果的に努力が結ばず不合格となり、公立中学校で学んでいました。
中学受験で十分に頑張り尽くしたこともあり、中学校1年生では塾に入らず独学で学んでいたTさん。しかし2年生になるにあたって、本人も親御さんの双方ともに「中学受験で悔しい思いをしたからこそ、高校受験で西京高校に合格できるように頑張りたい」という気持ちを持って入塾を希望してくれました。
悔しい経験をバネに頑張りたい、と考える生徒には絶対に気持ちに応えたいところです。
西京エンタープライジングは、堀川探究や嵯峨野こすもすよりは多少合格率が高くなるものの、その2校に準じた評定が必要です。Tさんは中2春からは髙倉塾に通っていますが、最終的に『報告書』にまつわる評定はこの通りでした。
評定 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 国語 | 音楽 | 美術 | 保体 | 技家 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1年学年末 | 5 | 5 | 4 | 3 | 5 | 4 | 5 | 3 | 3 | 37 |
2年学年末 | 4 | 5 | 4 | 4 | 5 | 3 | 5 | 3 | 5 | 38 |
3年12月末 | 5 | 5 | 4 | 4 | 5 | 3 | 5 | 3 | 4 | 37 |
3年間 合計 | 112 | |||||||||
拡張後 | 124 |
9教科で合計40程度取っていれば、西京レベルの高校には十分にチャレンジできます。Tさんは3年間、40弱の成績を取っていたので、強いアドバンテージにはならないものの、ハンデにもなりません。胸を張って勝負ができる、最低限の成績は確保できたと言うべきでしょう。
西京高校エンタープライジング科では、3年間合計に 150/135 (≒ 1.11) をかけて拡張した数字が『報告書』の点数となります。
ここでおさらいを兼ねて、エンプラ入試における各評価点の満点を掲載します。堀川探究科と嵯峨野こすもす科と比較してください。
国語 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 報告書 | 面or小 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
堀川 探究 | 100 | 100 | 100 | 50 | 50 | 100 | 小論25 | 525 |
嵯峨野 こすもす | 100 | 100 | 100 | 50 | 50 | 100 | 面接25 | 525 |
西京 エンプラA1 | 100 | 150 | 150 | 100 | 50 | 150 | 小論50 | 750 |
西京 エンプラA2 | 80 | 120 | 120 | 80 | 40 | 150 | 面接50小論50 陸上60※ | 750 |
報告書点は、堀川と嵯峨野は圧縮するのに対して、西京は拡張して計算します。しかし、合計点に占める割合で言えば、どちらも約20%です。
したがって、西京高校は評定を拡張しますが、『報告書』の重要度が高まるわけではありません。
- 探究、こすもすの合格判定において『報告書』が占める割合… 19% (100/525)
- エンタープライジングの合格判定において『報告書』が占める割合… 20%(150/750)
『報告書』の計算方法が違うものの、割合がほとんど変わらないので安心してください。
ということで、3年間合計の評定が112であるTさんの『報告書』ポイントは、112×(150/135), つまり112×約1.11となり、124であると概算することができます。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
? /550 | 124/150 | ? /700 |
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Tさんは『報告書』でまずまずの数字を持っているので、あとは2月に行われる『学力検査』が勝負です。
具体的な受験対策プランを考えなければなりませんが、西京エンタープライジングの受験では注意すべきポイントがあります。堀川探究と嵯峨野こすもすと比較すると、学力検査における配点が異なっているからです。
学力検査 | 国語 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
堀川 探究 | 100 | 100 | 100 | 50 | 50 | 400 |
嵯峨野 こすもす | 100 | 100 | 100 | 50 | 50 | 400 |
西京 エンプラA1 | 100 | 150 | 150 | 100 | 50 | 550 |
この表は、堀川探究や嵯峨野こすもすに比べ、
国語と社会の重要度(比重)が低く、理科の重要度(比重)が高い
ことを意味します。
探究、こすもす、エンタープライジングA1の各教科の配点比重をまとめると、下記の表のようになります。
学力検査 | 国語 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
探究&こすもす | 25% | 25% | 25% | 12.5% | 12.5% | 100% |
西京 エンプラA1 | 18% | 27% | 27% | 18% | 9% | 100% |
エンプラA1の行に注目すると、社会の国語の重要度を大きく削って、数英理の重要度を高めていることが分かります。
![woman filling job application form in office with boss](https://takakurajuku.jp/wp-content/uploads/2023/03/pexels-photo-5668858.jpeg)
堀川探究や嵯峨野こすもす等の専門学科を志望する生徒は、普通はそこがダメなら中期で同じ高校の普通科を目指します。
ただ、西京高校は普通科がないため、前期選抜のエンタープライジング科を落ちると、もう西京高校に入学する方法はありません。したがってTさんは、もしエンタープライジングに落ちたら私立に行く、という方針を持つことになりました。
選んだ高校は立命館高校です。大学に上がれることや、自由な校風が気に入って、立命館高校を併願で受験することになりました。塾としては、エンタープライジング科と入試レベルも近いですし、対策も似通っていて指導にとても便利ではありました。
こういったケースで受験プランを立てる場合は、下記のような流れがベストだと思います。
- 立命館高校や同志社高校を、最初の私立で併願受験する
- 大谷か花園を、日程をずらして受験する(私立を2校受けておく)
- 公立前期でエンタープライジングを受験する
立命館や同志社は京都では強い人気を誇る私立高校であり、ほぼ大学進学が約束されています。エンタープライジングに合格して3年間勉強を続けたとしても、結局は立命館大学や同志社大学に入学する可能性も高いこともあり、併願先としては悪くありません。
ただ難易度は低くないので、大谷か花園を受験しておくことが望ましいです。大谷か花園であれば、必ずどこかのコースには受験できますし、高校で頑張れば大学で立命館や同志社に合格することは現実的な目標となります。セーフティネットとして優秀です。
結局、Tさんは立命館高校に合格したので、あとは公立前期で思い切りエンタープライジング科を目指すのみとなりました。立命館か同志社であれば、中3夏以降でエンタープライジングに照準を合わせて学んでいれば合格率は高いです。
先に言及したとおり、エンタープライジング科では社会の配点比重がかなり低くなっています。そのためTさんの受験指導においても、「社会に時間を取られないようにすること」は大切な方針となりました。夏休み以降から、塾で気をもむのは社会以外の攻略です。
Tさんの『報告書』スコアは150点満点の124点であって、悪くはないですがそこまで安心できるレベルでもないです。2月の学力検査での戦略は、綿密に立てなければならないでしょう。
もう一度、エンタープライジングA1の学力検査およびその比重を表にまとめ、おさらいします。
西京エンプラA1 | 国語 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
得点 | 100 | 150 | 150 | 100 | 50 | 550 |
割合 | 18% | 27% | 27% | 18% | 9% | 100% |
最重要なのは、学力検査の55%程度を占めている数学と英語の2教科です。Tさんはこの2教科いずれも得意としていたため、エンタープライジングのハードな受験勉強も楽しんで乗り越えることができました。
一方で、「理科は中1の範囲もほとんど忘れた」というほど苦手意識を持っていたので、理科は自習時間にも積極的に取り組んでくれました。
理科を強化するための教材は、目的ごとに下記3冊が軸となっています。
- ざっくり3年間を振り返るための『フォレスタゴール』
- 基本事項の良問が揃う『中期選抜の過去問9年分』
- あとは実践で楽しむ『エンタープライジング過去問』
上記3つの流れは、エンタープライジングのような応用問題が揃う高校を攻略するためにはほどよいテキストになると思われます。難易度はそこまで高くなく、しかし必要事項はもれなくキャッチできます。理科の底上げを狙うエンプラ志望の生徒は参考にしてください。
![](https://takakurajuku.jp/wp-content/uploads/2023/03/f-goal.jpeg)
Tさんは、学力検査でどれくらいの点数を目指すべきでしょうか?小論文を除いた合計700点のうち、安全圏である6.5割の455点を目指すとすると、学力検査では331点を取れば良いことになります。
学力検査 (最低目標) | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
331/550 | 124/150 | 455/700 |
これは多少余裕を見た数字であり、実際には学力検査でもう少し低い点数であっても合格するはずです。ただ、学力検査で330点というのはたった6割ですし、これくらいは取れるくらいトレーニングを積んでほしいところです。
具体的な内訳のサンプルです。このあたりは、本人のモチベーションや得意不得意を考えて、精神的負担のない数値を決定するのがよいです。自信のある生徒なら、もう少し高く設定するほうがよいでしょう。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
90/150 (6割) | 100/150 (6.7割) | 60/100 (6割) | 60/100 (6割) | 20/50 (4割) | 330/550 |
入試まで受験生として努力を続けたTさんは、2月中旬の学力検査にて下記の点数を獲得しました。開示請求をした結果です。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
目標 | 90/150 | 100/150 | 60/100 | 60/100 | 20/50 | 330/550 |
結果 | 82/150 | 108/150 | 70/100 | 66/100 | 27/50 | 353/550 |
割と点数が取りやすい年だったこともあり、余裕を持って目標点を超えることができました。確実な得点源である英語と国語を逃さず得点し、何より基礎からやり直した理科も粘り強く解答して66点を取っています。
Tさんの、小論文を除いた合計スコアです。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
353/550 | 124/150 | 477/700 |
これくらいあれば、合格者平均を余裕を持って超えていると思われます。受験した年度でいえば、学力検査が300点を下回っていても合格した可能性があります。
Tさんの成功ポイントのまとめです。
- 中学受験の悔しさがあるぶん、最初からエンタープライジングへの意欲があった
- 成績をきっちり取っていて、報告書点はよかった(もう少し低くても問題ない)
- 西京A1の特徴を見て、理科に少し重点を置いて勉強を進められた
1.にある「最初からエンタープライジングへの意欲があった」ことは素晴らしいメリットであったと思います。最初に述べたように、エンタープライジングは中学受験で不合格となった再チャレンジ生徒は多いです。悔しい気持ちをポジティブな方向へぶつけることができれば、人間は必ず成長します。
とてもわかりやすい解説で、いつも拝見しております。
現在小学5年生の女子です。西京中学の受験にチャレンジさせたかったのですが、市外のため中学受験は諦め、高校でチャレンジできればと思っております。
中学に上がるまでは家庭学習でと決めていて、現在は、英検に力を入れているのと、算数はスタサプで先取り学習、国語は読解ドリルをしています。
西京高校を目指すのなら、中学受験しない場合でも、中学受験に出るような難しい問題をやっておいた方が良いのでしょうか?
今のままの勉強方針で良いのか、アドバイスいただければと思います。
中学は受験せず、高校からのチャレンジでも全く問題ないと思います!中学受験で合格に近い力があり、尚且つ中学でも評定を高く取れれば高校入試の合格率は高いです。
現在に実践しておられる勉強は素晴らしいですし、中学においてのリードとなることは間違いないと思います。一般論としては、中学受験を全く経験していない場合でも探究やこすもす、エンタープライジングに合格している生徒はたくさんいますが、やはりリードがあるに越したことはありません。
質問の回答にも関わりますが、小5でしたら「本人が前向きな気持ちで取り組めているかどうか」が最重要だと思います。まだ高校入試はかなり先ですし、マラソンの3km地点くらいだと言えます。ペースを早めすぎてしんどくなってしまったら、勉強が嫌になってゴール間際で力が出ません。
その心配さえなければ(本人が精神的な余裕がある範囲内なら)、たくさん応用問題に取り組めば必ず財産になり、中学成績はとても取りやすくなります。実際、中学入試で西京に落ちた塾生は、その貯金で中学の成績は高いです。
一方、少し負担が大きすぎるかも、と思うところがあれば相談して調整し、「頑張れる」と本人が言える範囲でぜひサポートしてあげてください。小学生ですと、稀に大人の想像以上に本人が負担に感じていることもあり、その点だけ注意深いケアは必要かなと感じます。
本人の状況をみて調整いただければと思います。余裕があるならば、中学受験をするつもりで応用問題もたくさん解くと素晴らしいです。ただ、「難関中学を前提としたハイレベル問題集」は自信と楽しさを失うリスクもあるので必ずしも解く必要はなく、「基礎テキストに載っている範囲内でのプチ応用問題」を楽しく解けるようになることを優先目標にしていただきたいです。それだけで中学の定期テストは簡単に感じますし、評定は取りやすくなります。
今は、現状に行われていることを継続するだけでも十分であることは間違いありません。それを中学入学までコツコツできれば素晴らしいですし、中3の受験シーズンで十分に戦える基礎力がつき、有利に戦えます。現状で負担が大きいなら、少し減らしたり元に戻したり、という具合に調整して継続力を優先していただければと思います。
長い目で見つつ、勉強の楽しさを感じながら勉強し、成長してほしいです。今の勉強方針に間違いはないので、一回一回のプリントを制覇したら称賛してスタンプ押してあげるなど、楽しく勉強できるようにぜひ見守ってあげてください。きっと潜在能力を最大限に伸ばしてくれると思います。
早速お返事いただきありがとうございます!
今のままでも大丈夫というお言葉を聞いて、とても安心しました。
また、本人の気持ちが大事、という所が、とても刺さりました。
今はまだ小学生で、本人にとっては高校受験と言われてもまだ現実味がないと思うので、今後は子どもの気持ちにしっかり向き合いながら進めて行けたらと思います。
ありがとうございました‼