ケーススタディとは、個別具体的な事例(ケース)を研究(スタディ)することで、そこから得られるヒントや法則を見つけるための学習です。
高倉塾では長年、京都府の高校受験をサポートしています。その中でも典型的なケースをピックアップし、そこで得られた知見をケーススタディとして紹介します。受験生は参考にしてください。
洛北高校は、堀川探究科や嵯峨野こすもす科を受験して惜しくも不合格になった生徒も、中期選抜で受験することも珍しくない、専門学科のある高校の普通科を除けば、専門学科に最も近い公立高校の普通科であると言えます。
【ケーススタディ】嵯峨野こすもす科: 惜しくも不合格であったが、果敢なチャレンジで学力を高めた事例洛北を第一志望にする生徒であっても、専門学科を第一志望にする生徒であっても、最低限の知識は持っておきましょう。
今回はTさんのケースを紹介します。
Tさんは中1の夏に高倉塾に来てくれています。その当時は志望校などはまだ頭になく、とにかく「学校の成績を上げたい」という気持ちのもとで三者面談に臨んでくれました。
小学校の時を含めても、今まで塾に行った経験はありませんでしたが、じっくりと学べる環境を整えたいとのことで、個別指導を中心に塾を選んだといいます。
入塾時はまだ中1の夏であり、1学期の成績が出たのみでした。その成績はいたって普通ですが、野球部と良く両立して頑張ってくれていました。
評定 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 国語 | 音楽 | 美術 | 保体 | 技家 | 合計 | 副2倍後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1年学年末 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 27 | 39 |
塾では当然のことながら、学校の定期テストを念頭においた勉強しか行いません。中1夏から小テストや宿題に関して、しっかりと塾の勉強にはついてきてくれたところ、中3学年末までの成績は最終的にはこのようなものとなっています。
評定 | 数学 | 英語 | 理科 | 社会 | 国語 | 音楽 | 美術 | 保体 | 技家 | 合計 | 副2倍後 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1年学年末 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 2 | 4 | 3 | 27 | 39 |
2年学年末 | 4 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 2 | 4 | 3 | 28 | 40 |
3年学年末 | 4 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 2 | 4 | 3 | 28 | 40 |
3年間 合計 | 83 | 119 |
普通科受験において、特に中期の場合は副教科を2倍した点が報告書の数値となります。Tさんの中期選抜における報告書点は、119点となりました。
評定は高いとは言えないものの、中2ごろから一貫して「洛北高校に行きたい」と考えるようになりました。先輩の話を聞いたり、部活や学校生活、家からの距離など総合的に考慮すると、本人にとっても家庭の方針としても、洛北高校が一番であるという思いが強くなっていたようです。
ただ、一般的に「この評定なら、洛北高校にも合格できると思うよ」と言えるような数字ではなかったため、後述するように、さまざまな葛藤や雑音と戦う必要がありました。
Tさんが直面する課題としては、合格者平均に比べると学校評定が低かったことです。例えば洛北高校普通科だと、合格者評定は低くても平均評定3.5くらい(9教科合計32くらい)です。この評定でも不合格になる生徒はたくさんいます。そう考えると、他の受験生に比べてTさんは大きく出遅れていることになります。
これを取り戻すためには当然、当日の「学力検査」で大きな点数を取る必要があります。ただ、Tさんの現状の学力と部活動の忙しさなどを考慮すると、楽観視できない状況であることは明らかでした。
特に中3夏休み以降、かなりの覚悟と勉強量が求められます。もはや「数学が課題だ」など、各教科に言及するまでもなく、全教科において均等に深く長く勉強すべき状況です。
年度によりますが、基本的には洛北高校は人気が高く、また入学後も文武両道で大学進学にも力を入れることができる高校です。したがって合格ラインが低く見積もられることは少ないです。
実際のところ高倉塾でのデータにおいても、Tさんの評定では合格率は低いと考えられます。Tさんの「報告書」スコアは119点でしたが、通常は合格にはだいたい150点くらい必要だと考えられているからです。
- 高倉塾における報告書スコアの合格者平均…. 150程度
- Tさんの報告書スコア…. 119
高倉塾における合格者の平均は150程度なので、Tさんとは31点の差があります。この31点の差は、当日200点満点の学力検査で挽回しなければなりません。例えば報告書スコア150の生徒が学力検査で140点を取ったとすると、Tさんは171点でやっと同点です。しかし、学校の成績が自分より高い相手に対して、学力検査で大差をつけて合格することは、通常は考えにくいことです。
実際に洛北高校の説明会などに行っても、「合格者は、だいたい平均評定が3.5くらい」と説明されることが多いです。こういった事情から、担任の教師などには「合格は無理だからやめてください。志望校を変更してください」と何度も念押しされたそうです。公立中学校の進路指導では、生徒に志望校を落とすようプレッシャーをかけることが珍しくありません。
厳しい状況から合格を掴み取るためには、こういった声を無視する勇気や図太さが必要です。Tさん本人はもちろん、その保護者の方も、そういった声を気にせず洛北受験のみに集中してくださったことは非常によかったです。
普通に考えると「合格を狙うことは無謀だ」と考えられるような状況でしたが、どんな戦いでも勝率を高めてもがくことはできます。
Tさんに限らず普通科狙いの多くの生徒にも該当しますが、前期選抜は相手にしないことが重要です。そもそも京都府の公立高校普通科受験に関しては、「前期選抜で定員の30%を合格させ、中期選抜で残りの70%を合格させる」ものでありますが、特に分ける必要性もないですし、普通科受験に限って言えばそもそも前期選抜の存在意義が薄いです。
Tさんの場合は、定員の30%だけが合格できる前期選抜の合格率は0%に近いです(学力検査で満点を取っても合格が怪しい)。前期選抜は受験するものの、現場の雰囲気に慣れるためのトレーニングとして利用します。
中期選抜の「学力検査」は、各教科40点満点の合計200点評価です。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
40 | 40 | 40 | 40 | 40 | 200 |
専門学科の受験に比べて特筆すべきは、5教科全てが平等に評価されることです。専門学科の受験においては、社会や理科は配点割合が低くなることが多く、思い切って完全に受験科目から削っている高校もあります(桃山自然科学は社会なし、紫野アカデミアは両方なし)。
普通科の中期選抜の社会と理科は、基礎的なものに終始します。少し勉強すれば8割くらいは取れる可能性が高く、生徒間であまり差がつきません。
この点をうまく突いて完成度を高めれば、中期選抜で8割を達成する可能性はかなり高く、生徒によっては9割から満点を取ります。このように社会と理科で他と差をつけることを意識すれば、合格者平均に大差をつけることは難しくとも、Tさんが総合点において合格者平均と同じくらいの点数を取る可能性は決して低いものではありません。
まず中期選抜は、学力検査200点満点と報告書195点満点の合計395点満点で合格者を決定します。Tさんの報告書スコアは119点。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
?/200 | 119/195 | ? /395 |
395点満点でいえば、合格者平均では300点近く、ギリギリの合格を狙う場合でも、最低でも270点ほどは欲しいところです。ターゲットを270点とすれば、Tさんは当日に151点取らなければなりません。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
151/200 | 119/195 | 270/395 |
Tさんの学力検査の目標点は、151点となります。教科ごとの内訳は、社会と理科の対策を多めに配分して偏らせるしかありません。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
27 /40 | 27 /40 | 26 /40 | 36 /40 | 36 /40 | 152/200 |
理科と社会で9割を取る野心的な目標となってしまいましたが、部活が終了するのが秋になってしまったこともあり、限られた時間で得点を安定させるにはやむをえません。
理科と社会は1~3年生の基礎だけを集中するため、教材は『フォレスタゴール』を利用し、あとは塾内の過去問プリントです。
うまく学力検査で152点取れるとも限りませんし、取れたからと言っても合計270点ですから、依然として合格率は高くありません。したがって、不合格の可能性が高いことを本人はもちろん、家庭としても理解しておく必要があります(考え方によっては、行きたい高校に10%でも合格率があれば、それは高いと見るべき)。
Tさんは高校生活をイメージし、部活動を頑張りつつ大学進学も確実に視野にいれることができる、京都先端科学大学付属高校を併願私立に選びました。結局はこちらの特進BASICに合格しており、納得のいく第2志望高校をキープできたことになります。
リスクの高い戦いは、あくまでもセーフティネットを確保するからこそ、思い切ってチャレンジすることができます。話し合いを進めておき、必ずTさんのように不合格時のことは考えておくべきです。ほぼ大丈夫ではありますが、仮に先端付属に落ちた場合は、洛北の受験は再検討していた可能性が高いです。
あとは、単純にTさん受験年度の倍率が低いことを祈るしかありません。洛北高校の中期倍率は波があるので、うまく低い年度にあたれば合格率が飛躍的に高まります。
1.3倍を超えるようだとほぼ不合格だと思いますが、1.1倍程度なら勝負できます。
Tさんは当日の学力検査に全力を発揮し、下記のような結果を出してくれました。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
24/40 | 30/40 | 24/40 | 31/40 | 37/40 | 146/200 |
合格のために設定した一応の目標点は152点なのでそこには届きませんでしたが、もともとのTさんの学校評定からすると、146点は立派な数字です。
数学 | 英語 | 国語 | 理科 | 社会 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
目標 | 27 /40 | 27 /40 | 26 /40 | 36 /40 | 36 /40 | 152 /200 |
結果 | 24 /40 | 30 /40 | 24 /40 | 31 /40 | 37 /40 | 146 /200 |
公立普通科の中期選抜に関しては、やはり社会と理科は対策時間と成果が比例しやすいことが分かります。
報告書と合わせたTさんの総得点は、265点でした。
学力検査 | 報告書 | 合計 |
---|---|---|
146 /200 | 119 /195 | 265 /395 |
結果は、見事合格でした。合計265点であれば、本来は合格の可能性が極めて低いといえる数字です。ただ、Tさんの受験した年度は見事(?)、倍率が非常に落ち着いた年度でした。
例えば、直近3年の洛北高校の中期倍率は下記のようなものとなります。
2023 | 2022 | 2021 |
---|---|---|
1.06 | 1.20 | 1.55 |
Nさんが2021年受験であれば確実に、2022でも高確率で不合格です。ただ、偶然受験年が2023年であれば、それだけで合格率が飛躍的に高まるということです。
洛北高校への受験に関して、Tさんの合格から学べることをまとめます。
- 9教科合計で27あたりの成績でも、人気のある洛北高校に合格できる
- 外部から「難しいですよ」と言われた際はしっかり聞き流し、信念を貫いた受験を行う
- Tさんのように合格率の低い受験を挑む際、私立受験は一層念入りに考え、後悔ない併願受験をする(思い切って第一志望受験できるように)
- 公立普通科であれば、勉強が得意でなくとも、社会と理科を中心に攻めれば高得点も達成できる
Tさんの勝因は何より、現状の成績や周囲の声に惑わされることなく「私は洛北高校を受験する」という気持ちを貫き通したところにあります。その結果、目標達成のためのたくさんの勉強時間も、めげることなくクリアしてくれました。
どんな現状にあっても、諦めずに受験する価値はあります。