結論:京都府の公立高校入試システムにおいては、私立を専願で受験したとしても、公立前期は出願できるし、できなければ公共システムとしておかしい。難関私立に専願で挑戦し、なおかつ第二志望が公立なのであれば、必ず前期選抜を出願するべきである。
高校入試は大学入試と異なり、各都道府県でローカルルールが採用されているので、分からないことや誤解に溢れています。例えば京都府の高校入試では、公立入試ならば1年生の学年末評定から大きく重要視されますし、かといって私立では評定を重要視しない(推薦を除く)、など分かりにくいのが現状です。
【京都府】公立高校(普通科)の入試制度を解説 【A方式1型】など、前期選抜の入試システム詳細だからこそ、京都府出身ではない保護者の方は特に高校受験に関する知識はないですし、「合格するのかどうか、どれくらいの確率なのか」などの直接的な心配に留まらず、「そもそもどんな入試制度なのか」すら確信が持てない状況です。自分で検索してみても、ネットには核心のついた情報は限られています。
年末に近づくにつれ、中学校では「最終的な受験プランを固めてください」とプレッシャーをかけられているはずです。ここでは微妙な判断になる「私立専願」と「公立前期」の両立に関する話を書きます。
前提として、京都府や京都市の高校入試において、公立高校の受験は「専願」しかありません。つまり、公立高校を合格しておきながら「やっぱり私立に進学します」と伝えることは原則として認められないことになっています。もはやこれは常識すぎて、公立受験は「専願」という言葉すら使いません。合格即入学です。
もちろん法的な拘束力はありませんから、この原則を無視して「公立に合格したけど、やっぱり気が変わったから併願で受かった私立に進学すること」は可能ですし、全ての国民にはその権利があります。ただ、そういう事例が増えると教育委員会から中学校に指導が入る可能性もありますし、中学校の先生の必死の制止を突っぱねる覚悟は求められます。
願書を高校に提出するのは中学校ですから、当然の前提として「公立を受験するなら、受かったら必ず公立に入学すること」を念押しされていることと思います。これ自体は特に問題のある行為ではありませんし、これで困る受験生もほぼ存在しません。ゆえに、普通に従っておけば良い暗黙のルールであると思われます。
ただ、ここから一歩進んで「私立を専願で受験するなら、公立の前期選抜は受験できません(願書も出しません)」と進路指導を受けるケースもあるようです。これは明らかに誤った進路指導です。
「私立を専願で受けるなら公立前期は受験できない」の謎理論の根拠はおそらく、「公立は第一志望であることが前提だから、私立を専願で受験しつつ公立を受験することは、第一志望の重複となるから認められない」といったものではないでしょうか。
「公立は合格即入学を前提としてもらわねば困るから、私立の専願と両立して出願はしないでほしい」と思う気持ちは分からないでもありません。
インターネットで検索してみると、そんな質問と回答もありました。リンクから読んでみてください。
質問日は2022年の10月30日であり、進路指導も煮詰まってくる頃です。質問した方もおそらく「私立を専願で受験するなら、公立の前期は受けられませんよ」といった話を聞いたのではないでしょうか。高倉塾の周りだけでなく、そういった噂や進路指導が中学校で横行している可能性があります。
この質問の回答では、下記のような回答があります。
システム上、不可能です。 私立専願も公立前期も「受かったらそこに行く」という確約の元受験するのでそんな相反している出願は無理です。ただしどちらに行くにせよ、私立併願は受けられるのでそこは問題ないです。
「システム上、不可能です」との回答があります。もちろん、この種の匿名の書き込みは参考程度にとどめなければならず、これを100%正確な回答であると考えてはいけません。何より、専願の私立を不合格になったのであれば、その後に第2志望として前期選抜を受けても「受かったらそこへ行く」の約束に嘘はないはずですから、疑問が残る回答です。
また、京都府教育委員会のウェブサイトにおいても、「よくある質問」の中に非常に曖昧でややこしい記述があります。
Q7: 私立高校を第1志望(推薦又は専願で受検)として公立高校を併願することはできますか。
A: 前期選抜で公立高校を志願する場合は、第1志望としてください。
これを読む限り、京都府の公式な見解で「公立高校を第1志望とせよ」、つまり「他に第1志望があってはいけない」と書かれているようにも読めるため、「私立を専願で受験した場合は、公立の前期選抜は諦めなければならないのか」と捉えられてもおかしくありません。
ただ、これは府の教育委員会のウェブサイトであり、どちらかと言えば受験を受け入れる府立高校側の見解とみることができます。彼らが「第1志望の人だけ受けてくださいね」と希望を伝えているだけであるとも捉えられるし、ハッキリと「できません」と断言していないところを考えても、回答の歯切れの悪さが目立ちます。
「システム上、可能なのか不可能なのか」を聞いているのに、「第1志望としてください」などと京都府のお気持ちを表明されても困ります。これでは全く質問の答えになっていません。
したがって、京都府教育委員会のこの回答を根拠にして「私立専願と公立前期の両方受験はできない」と結論づけることはできません。
ここで、私立高校と公立の前期選抜のスケジュールを確認してみましょう。
私立高校と公立高校受験のスケジュールを表にしました。私立高校は、受験者数が圧倒的に多い大谷高校をピックアップしています。
私立(大谷) | 公立前期 | |
---|---|---|
出願期間 | 1/15 ~ 1/22 | 2/2~2/3 |
受験開始日 | 2/10 | 2/15 |
合格発表 | 2/13 | 2/22 |
私立の合格発表日と公立前期の出願期間に注目です。公立前期の出願期間は2月2日と2月3日のたった2日間のみであり、まだ私立の受験が始まっていない日程です。ここで明らかになることは、専願で受験した私立高校に落ちてしまった場合、それが判明するのは2月13日頃である。その時点では既に、前期選抜の出願は締め切っているということです。
つまり、私立を専願で出願しつつ、不合格のリスクを考え、並行して公立前期を出願しておかなければ私立不合格時に公立受験のチャンスが奪われてしまうことが分かります。「私立を専願で受験するなら、公立前期は受験できません」と進路指導をする人は、その生徒が100%で私立専願に合格することを保証してくれるのでしょうか?
私は、いくら中学校の進路指導で「無理だ」と言われようと、京都府教育委員会のウェブサイトで微妙なことが書かれていようと、「私立を専願しつつ、公立の前期は出願して問題ない」と考えます。
なぜなら、仮に「私立を専願で受験する限り、公立前期は受験できませんよ」という指導が真実であるとすると、公教育に関するシステムとして、あってはならないことが起こってしまうからです。
私立と公立のスケジュールを確認すれば明らかであるように、これは言い換えれば「私立を専願受験して不合格になった中学生からは、公立高校入試のチャンスを半分剥奪します」と言っていることに等しいです。惜しくも不合格となってしまった彼らは、なぜか前期選抜を出願することが許されていなかったため、中期選抜でしか公立入試の機会が与えられないことになってしまうからです。
つまりこれは、私立専願で不合格になった中学生に対して、地方公共団体が入学選抜において不当な差別的取り扱いをしていることとなってしまいます。当然、税金で賄われる公共システムでこのような取り扱いが実際にあったとしたら、大きな問題に発展します。
念の為に、下記組織に電話で確認しました。
- 京都府教育委員会(府立高校側の見解)
- 京都市教育委員会(進路指導側、中学校の見解)
まずは、受け入れる側の府立高校の見解を確認するため、京都府の教育委員会に電話しました。やはり、「公立高校は基本的には第一志望でお願いしているが、専願した私立に不合格になる可能性もあるため、私立専願者の前期選抜出願を拒否することはできない」旨の回答がありました。私立を専願でも、安心して前期選抜を出願してください。
次に、ほとんどの公立中学校は市立であるため、京都市教育委員会に「市立中学校でそのような進路指導があるようだが、京都市としても同じ見解であるのか、京都市教育委員会として中学校に対し、そのような進路指導を促しているのか?」を確認しました。それに対しては、「そのような進路指導をするように伝えていることはない。私立を専願にしつつ公立前期を出願することは可能である」とはっきりと回答していただけました。
同時に、堀川や西京、紫野などの市立高校への出願も妨げないと考えられます。
通常の受験プランを練っているのであれば、私立を専願で受験する場合は前期選抜を受験できなくとも大きな問題にはならないことが多いです。
例えば人気の高い大谷や花園、先端あたりだと専願受験で全コースに不合格になる可能性は低いですし、不合格になったとしても、そもそも競争の激しい前期選抜で合格する見込みも少ないからです。だからこそ、誤った進路指導があっても特に受験生側から疑問が出ることもなかったのだと思われます。
ただ、京都で言えば下記のような難関校を専願で受験する受験生にとっては重要な問題になる可能性があります。
- 洛南高校
- 立命館系
- 同志社系
これらはそもそも難易度が高いことと、付属校であれば定員が比較的厳格ですし、合格率は相対的に低くなっています。
例えば、洛南や立命館、同志社を専願受験したとします。一応は大谷や花園も併願で受験しておくことが普通ですが、あくまでも第2志望は桃山高校だったとしましょう。
この時、第1志望は立命館で、第2志望の桃山としては普通科では自然科学科を受験したいと考えることが多いです。これら専門学科受験にはリスクがないからです。
下記ブログで言えば、9教科34~39のBさんです(山城だったら文理総合科、紫野だったらアカデミア科が第2志望)。
実際の学力で見ても、「洛南や立命や同志社に不合格であったが、桃山の自然科学科には合格できた」というケースは普通にありえます。これらの公立専門学科は何があっても前期選抜でしか合格のチャンスがないので(欠員になっても中期は募集しない)、私立受験前に前期選抜での願書を出しておかなければなりません。
この進路指導は都市伝説ではなく、実在しているようなので、もしかすると「私立専願で、前期選抜を受験したいのに諦めた」という受験生もいるかもしれません。まだ間に合いますし、この事実を知って自分の納得のいく受験をしてください。頑張って目指したい高校があるのに、誤った指導で目標を諦めてしまう中学生がいることは、とても悲しいことです。
前期選抜の経験やチャンスを棒に振らなければならない理由はありません。
自分が「私立専願だが、第2志望として前期選抜も受験したい」と考えており、しかし学校から今回のような進路指導を受け、「前期選抜は受験できません」と突っぱねられてしまったら、どうすれば良いのでしょうか。
まず、進路指導の先生に「私立専願でも、専願した高校に不合格になる可能性があるから、前期は出願したい。制度上、出願できるはずだ」と伝えてください。それでも首を縦に振らなかった場合は、「高倉塾のブログにそう書いてありますが、このブログは間違っているのですか?」と言ってもらってもOKです。
それでも埒が明かない場合は、京都市教育委員会に電話をしてください。
「⚪︎⚪︎中学校で、このような進路指導をされて困惑している。受験のチャンス/が潰れることを懸念しているが、京都市教育委員会としての見解はどうなのか」と問いかけ、最終的には中学校名を明かし、直接中学校に指導を入れるように依頼してください。
高倉塾でも難関私立を専願で受験する塾生は毎年必ずいますし、その塾生には怠らずに前期選抜を出願してもらわなければ困ります。前期選抜や専門学科を諦めるなど認めるわけにはいかないので、最終的には塾から中学校及び教育委員会に忠告して解決します。
もし塾に通っていれば、自分で動かずとも塾の責任者に依頼すれば解決してくれるかもしれません。
前出の京都府教育委員会のQAは修正すべきですね。
「志願する場合は」と書いてしまうと、「出願時点で第1志望でなければならない」という意味になってしまいます。これでは、私立の専願受験生は出願できないように読めてしまいます。出願時点では、公立は第2志望でも問題ないでしょう。
この部分は「受検する場合は」に修正するべきです。この記述にすれば、「第2志望であっても”出願”はできる」ことになります。私立専願を不合格になった中学生は、2月15日の受験日においては公立第1志望に生まれ変わっていますから、この記述で問題なく堂々と受験できます。